消化管の悪性腫瘍について
食道癌
食道の解剖と機能
食道は、成人では20-25cmにわたる消化管であり、頸部・胸部・腹部食道に区分されています。このうち、胸部食道は縦隔(特定の臓器の名称ではなく、胸膜によって左右の肺の間に隔てられた部分)の中を走行し、心臓や気管、気管支、大動脈や大静脈、胸腺、 神経など重要臓器に近接しています。食物を蠕動運動によって口から胃へと送り込む働きが主なものであり、いわば「筋肉の管」としての機能です。
病態
食道癌は、食道粘膜に発生する癌腫であり、日本では胸部中部食道に発生する扁平上皮癌が多く、欧米では胸部下部食道や食道胃接合部に発生する腺癌が多いという違いがあります。飲酒や喫煙などが癌発生の一因とされており、60歳代に多く、男女比は8~9:1で男性に多いとされています。
胃癌や大腸癌と比べて、早期からリンパ節転移が起こりやすく、頸部・胸部・腹部と広範囲に転移しうることや、大動脈や気管・気管支など周囲の重要臓器への直接浸潤が起こりやすいことによって、治療方針決定が難しくなっています。また、肺や肝臓、副腎、骨などに遠隔転移しやすく、治療に難渋することが多いことから、悪性度の高い癌腫の一つとされています。
診断・治療方針の決定
国際がん会議 (UICC) のTNM分類や、日本食道学会の「食道癌取扱い規約」によって食道癌の病期が決定されます。「食道癌診断・治療ガイドライン」をもとに、日本癌治療学会や日本食道癌学会の最新の知見を踏まえ、治療方針を決定します。
食道癌の治療の大原則は、「転移の可能性のあるリンパ節を含む食道を切除する」「切除した食道の代わりを消化管でつくる」こと、すなわち手術が基本となります。癌の進行度によって、以下のように標準的治療が選択されます。
- 癌浸潤が粘膜固有層までにとどまり、食道壁の3/4周未満に限局している場合のみ、リンパ節転移の可能性はまれであることから、リンパ節を切除せず癌病巣のみを切除する「内視鏡的切除」が行われています。詳細は内科をご覧ください。
- 粘膜固有層を越える進行度の場合、手術療法が選択されます。手術だけでは十分な効果があげられないことや、抗癌剤や放射線治療がよく効くことから、これら複数の治療法を組み合わせた「集学的治療」が行われています。 手術は、食道切除、頸部・胸部・腹部の3領域にわたる広範なリンパ節郭清、主に胃を加工して作成した胃管での消化管再建を行います。胸部操作に際して、通常の開胸操作では、術後に呼吸機能低下や肺炎などの肺合併症が増加するため、体への負担が大きいものです。当院では、東北大学総合外科食道班より医師を招聘して胸腔鏡下に手術を行い、患者さんの負担を軽減させています。
- 遠隔転移など手術では取り切れない進行度の場合や、心臓や肺の働きが手術に耐えられないと判断される場合には、抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤を用いた薬物療法や放射線療法を組み合わせた集学的治療を行います。詳細は化学療法、がん化学療法レジメンをご覧ください。
胃癌
胃の解剖と機能
胃は、食道に続き十二指腸につながる管状の消化管であり、入り口(噴門部)と出口(幽門部)が狭く、間は袋状に膨らんだ構造をしています。
胃の働きは、食道から入ってきた食べ物をとりあえず貯める、大量の胃酸を分泌する、食物の攪拌・すりつぶしをおこなって胃酸と混ぜ合わせる、ドロドロになって消化吸収しやすくなった食べ物を十二指腸に押し出す、といった働きをします。
病態
胃癌は、胃壁の最も内側にある粘膜から発生し、進行していくと深く(粘膜下層→固有筋層→漿膜下層→漿膜)進んでいき、さらに進むと近接する膵臓や大腸などにも入り込みます(浸潤)。また、胃壁のもっとも外側の漿膜を越え、おなかの中に癌細胞が散らばることもあります(腹膜播種)。癌の進行に伴って、リンパ管や血管を介して全身に広がり、肝臓やリンパ節などの離れた臓器に生着・増殖することがあります(転移)。
診断・治療方針の決定
国際がん会議 (UICC) のTNM分類や、日本胃癌学会の「胃癌取扱い規約」によって胃癌の病期が決定されます。「胃癌治療ガイドライン」をもとに、日本癌治療学会や日本胃癌学会の最新の知見を踏まえ、治療方針を決定します。
胃癌の治療の大原則は、「転移の可能性のあるリンパ節を含む胃を切除する」「胃と腸管をつなぎ合わせて食物の通る道をつくる」こと、すなわち手術が基本となります。癌の進行度によって、以下のように標準的治療が選択されます。
- リンパ節転移の可能性が極めて低く、腫瘍が一括切除できる部位にある場合、内視鏡的切除が可能です(リンパ節を切除しない縮小手術)。その適応は、癌の組織型や大きさ、潰瘍の有無などから総合的に判断されます。詳細は内科をご覧ください。
- 主として治癒を目的とし標準的に施行される胃切除術を定型手術といい、胃の2/3以上切除と転移する可能性のあるリンパ節を切除(リンパ節郭清)します。癌の進行度によっては、2/3以下の胃切除範囲にすることや、定型手術以下のリンパ節郭清にとどめる手術(縮小手術)が行われます。一方、他臓器に浸潤しているものの手術で根治切除可能と考えられる場合には、他臓器合併切除や定型手術を越える範囲のリンパ節郭清を行う場合があります。癌の進行度によっては、治癒切除後に微小遺残腫瘍の再発予防を目的として、1年間の術後補助化学療法を追加することがあります。
- 遠隔転移など手術では取り切れない進行度の場合や、心臓や肺の働きが手術に耐えられないと判断される場合には、抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤を用いた薬物療法を行います。詳細は化学療法、がん化学療法レジメンをご覧ください。
- 治癒切除ができない進行度でも、胃癌による出血が続く場合や食べ物の通過障害のために食事がとれない場合には、症状緩和や生活の質を維持するために緩和的手術(姑息的胃切除やバイパス術)が行われます。
大腸癌
大腸について
大腸は、小腸に続く約2mの消化管で、大きく盲腸、結腸、直腸の3つの部位から成り、最終的に肛門へと続きます。結腸はさらに部位別に、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸に分けられます。
大腸の壁は内側から、粘膜、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜で構成されており、大腸癌は最も内側の粘膜から発生します。
症状
早期の大腸がんではほとんど症状がなく、便潜血検査を契機に見つかることがほとんどです。がんが大きくなってくるにつれて、がんからの出血による血便、下血、貧血や、内腔が狭くなることによる残便感、便秘、腹部膨満、嘔気・嘔吐などの症状が出てきます。また、腹部のしこりとして初めて気づかれることもあります。
検査
便潜血検査や症状から大腸がんが疑われる場合、大腸内視鏡検査や注腸X線検査を行います。大腸がんと診断されれば、進行度(がんの拡がりや転移の有無)を調べるため、CT検査、MRI検査、PET/CT検査、腫瘍マーカー測定などを行います。
治療方針
大腸がんの進行度(ステージ)は、①がんの深さ(T)、②リンパ節転移の有無(N)、③遠隔転移(肝臓、肺、腹膜などほかの臓器への転移)の有無(M)により、0~Ⅳ期までの5段階に分類されます。
0期とⅠ期の一部は内視鏡的切除(内科的治療)となります。Ⅰ~Ⅲ期が手術(外科的治療)の対象となります。Ⅳ期は基本的には化学療法、放射線療法が主体となりますが、出血や閉塞症状の緩和を目的として手術を行う事もあります。また、大腸がんではⅣ期でも転移の程度によっては化学療法との組み合わせにより手術で根治を得られることもあります。
当院では、毎週外科スタッフ全員でカンファレンスを行い、最新の大腸癌取扱い規約・大腸癌治療ガイドラインに基づいて最適な治療をご提案しています。
手術
がんの発生部位によっても異なりますが、一般的には癌から約5~10cm離して腸管を切除し腫瘍を栄養している血管に沿うリンパ節も同時に切除します。また、周囲臓器への浸潤がある場合でも完全切除可能な場合には併せて切除を行います。手術は全身麻酔で行われ、手術時間は通常3~4時間程度です(腹腔鏡手術の場合はやや長くなります)。術後の経過が順調であれば入院期間は約2週間です。
手術のアプローチ法としては開腹手術と腹腔鏡手術があります。腹腔鏡手術は、患者さんへの負担が少ない”低侵襲“手術として、近年急速に普及しており当院でも積極的に取り入れています。実際の適応としては、がんの深さ、リンパ節転移の程度や腸閉塞の有無、また年齢や併存疾患も総合的に考慮し患者さんの安全性を第一に決定しています。
腹腔鏡手術
従来の開腹手術では通常20cm程の皮膚切開が必要です。一方、腹腔鏡手術ではお腹に5~12mmの小さな穴を5か所開け、カメラ(腹腔鏡)でお腹の中の映像をモニターに映し出し、専用の道具を使って手術を行います。最後に切除した病変を4-6cmの小さな切開創から体外へ取り出し腸管を吻合します。
開腹手術に比べ傷が小さいため、傷が目立たず術後の痛みが少ない、胃腸や身体の回復が早く入院期間が短い、精密な手術により出血量が少ない、術後の癒着が少ない、などのメリットがあります。