研修医日記
初めて人を看取った瞬間
研修1年目 T・I先生
私が初めて人を看取らせていただいたのは5月某日のことであった。その日の朝もいつもと変わらず病棟の患者さんの採血を行っていた。そんなとき、何やら看護師さんたちの動きが慌ただしくなる、同時に私を呼ぶ声が聞こえた。肺炎で入院していた患者さんが突然呼名に応答しなくなり、呼吸も下顎呼吸になってSpO2も低下している、といった内容で、当時私がひとりで対応するにはあまりに重症であった。
当然待機の先生に即座に連絡を取ってもらい来ていただくことにはなったが、それまでの時間をどうつなぐか・・・考えられるありとあらゆることを行ってはみたものの、そのときはあっという間におとずれた。数分後には心肺停止の状態、瞳孔も散大しており、救命は難しいと考えられた。指導医の先生やご家族が来られるまで救命を続けたが、そのまま息を吹き返すことなく、お亡くなりになられました。
人の、それまでの長い人生の終わりを告げるということの責任の重さを痛感するとともに、もう少し自分に知識があれば何か他のことが出来たのではないか、とも思った。お見送りしているときは、「本当に申し訳ありませんでした」という気持ちでいっぱいだった。
しかし、話はこれで終わりではなかった。後日、患者さんのご長男の方が病棟のほうに訪ねられてきた。正直私は、何も出来なかったことに対して何か言われるのではないかと思ってしまったが、その方は「先生、その節は本当にありがとうございました。この経験を活かして、立派なお医者さんになってください。」とおっしゃってくださったのだ。全く予想外のお言葉で驚いてしまったが、それはとてもありがたいお言葉で、心にしみた・・。「あぁ、頑張らなきゃなぁ・・」と思った。
まだ始まったばかりの医師人生、いいこともあらばそうでないこともあると思うが、壁にぶち当たったときには、この言葉を思い出し、初心に戻り、また一歩一歩努力していこうと思う。
本当にありがとうございました。
医師としての喜びを感じた瞬間
研修1年目 I・H 先生
研修医としてスタートして早1年と5ヶ月・・・数え切れないほどたくさんの症例や手技を 経験させていただき、まだまだ未熟ではあるが、少しずつ任せていただけるようになり、医師としての充実感を感じている今日この頃である。
今回は、これまで経験した様々な症例の中で、その”医師としての充実感や喜び”を感じた症例をご紹介したいと思う。
症例は70代女性。近医からうっ血性心不全(CHF)の紹介で救急外来を受診された。来院時の意識レベルはJCSでIII-300(痛み刺激に反応なし)、酸素投与を最大に上げてもSpO2 90%程度→挿管、血ガスでpH 7.175、PaCO2 76.4、PaO2 70.6、胸部レントゲン写真では、著明な肺うっ血と心拡大、心エコー上でも、左室壁運動低下、下大静脈も拡張、EFはまさかの11%!!(要は心臓がほとんど機能していない)循環器科の先生方もこれほどの重症はほとんどみたことがないというほどの症例であった。(専門的に書いてしまい申し訳ございませんが、とにかく非常に具合が悪いということです。)
重症心不全として、ニトロール、ラシックス、プレドパ、ドブトレックスなど使える薬剤はフルコースで使い治療開始。途中、Torsade de Pointes と呼ばれる不整脈が発生しリドカイン、マグネゾールを用いたり、ついには VT/VF という致死的不整脈が頻繁に起こるようになり、一晩中 DC(除細動器)をかけたときもあった。
一時的ペーシングにてこれは何とか乗り越えたが、状態が悪い時期がしばらく続いた。しかし、投与する薬剤の調節と、毎日の点滴量-尿量バランスを取ることで急性期を何とか経て、ついには抜管(人工呼吸器からの離脱)にまでいたった!循環器科の研修医として関われたのはこの辺りまでだったが、その後も通い続け、患者さんはついには自分の口からお食事も食べるように!! さらには、なんとこちらの目をみて「元気ですよ。」と話されたときは、正直泣きそうになってしまった・・・まさかこの方の声を聞けるとは思ってもみなかったからだ・・。今までの苦労が報われた瞬間であった。と同時に、たいした経験もないくせに、この方が救急外来に来たとき、そのあまりの状態の悪さに、「もうダメかもしれない」と、一瞬でもよぎってしまった自分が、愚かでしかたなかった。
どんな状態の患者さんが来ても、自分には、とにかく今出来る治療を最大限に行なうことしか選択肢はなく、その数だけ成長するものだと信じて、今後も真摯に医療を続けていきたい。そう感じさせてくれる症例でした。本当にありがとうございました。
専門用語が多く大変申し訳ございませんでした。日々行なっている医療を少しでも感じていただけたらと思い、ありのままを書いたつもりです。今後も定期的にアップしていこうと思っております。